THE世界大学ランキングについて

先月、THE世界大学ランキングが発表された。各大学ともそれぞれスコアを分析してそろそろリリースされる頃だろう。

結果は少しもの足りないもので、ランクイン数ではアメリカに次ぐ順位だったものの、上位ランキングという観点では英語圏の大学はもとより非英語圏でも中国や韓国、香港に押されている感じではある。
ヤフーコメントでは学生の質や努力を疑問視するような意見が多く見られた。大学生というモラトリアム期間にキャンパスライフとか夢物語を抜かして、合コンだサークルだフェスだパパ活SNS炎上だと、毎度毎度眉間にシワが寄るような行動をする学生側にも問題があるのかもしれない。しかしながら、それは大きな誤りである。何故なら責をとわれるのは学部学生ではなく、教員と大学院生と所属研究者たちだからだ。

少し詳しい話をしよう。

2013年に、産業競争力会議が策定、公開したその成果目標の一つとして「今後10年間で世界大学ランキングトップ100に10校以上を入れる」が加えられた。国をあげての目標と言い換えても過言ではないのではないか。
このようなランキングを政策目標に設定するのは賛否あるとは思われるが、大学の力を可視化するためにはある程度の客観的指標があった方が第三者にとってもわかりやすいという事情もある。研究者の間ですら専門分野以外の研究を評価するのはすこぶる難しい。嫌味な言い方になるが、非アカデミックな人にとっては無理難題だと思う。
問題なことに大口スポンサーは非アカデミックな人たちである。研究費として多額の公的資金が投入されている以上、研究評価は無理でも客観的指標を見せる必要がある。

世界大学ランキングとして、上海交通大学作成の世界学術ランキング(ARWU)、Times Higher Education(THE)誌作成のWorld University Rankings(THEランキング)、QS社作成のQS World University Rankings(以下QSランキング)の3つが広く知られている。他にも世界イノベーション大学ランキング(ロイター?)とかあった気がするが、そもそも大学のランク付けは絶対的なものではない。
先月発表されたTHEランキングは2010年まではQS社、2015年まではトムソン・ロイター社が、現在はエルゼビア社がデータ分析を担当している。会社が変わるときに順位が大きく変わっている点にも注意してほしい。現行では33%がエルゼビア社による評判調査(教育が18%、研究が15%)なので過度に気にする必要はないのだが、大きな影響力を持っていることも事実である。

THEランキングは5項目でさらなる小区分として13の項目で評価される。
教育では、評判(エルゼビア経由聞き取り)、職員数/学生数、博士号取得者数/学士号取得者数、博士号取得者数/教育研究職員数、
大学収入/職員数に分けられる。
同じく研究は評判、研究収入/職員数、論文数/研究者数に分けられる。論文被引用数はそのまま論文被引用数/論文数となる。
国際性は留学生数/国内学生数、外国人教員数/国内教員数、国際共著論文比率に企業からの収入は産業界からの研究費/教育研究職員数を数値算出の対象としている。
それぞれの数値に独自に重み付けされて計算されるようで、野球に詳しい方にしか伝わらないたとえ話をすると大学版セイバーメトリクスみたいなものである。

話は戻るのだがこの評価のなかには学生の態度なんてものは入っていない。
代返しようが、寝ていようが、出席とったあと逃げようがランキングには反映されない。大学生のみんなは安心して節度を守ったキャンパスライフを楽しんでほしい。なんなら押さえるべきところを押さえる学生の方が社会にでたあとは強みになるかもしれない。就職する人たちは遊んで大丈夫。大学院に入ったあとは奴隷生活が待っているので院進学する人たちはもっと切実である。大学のうちに死ぬほど遊び倒して、さらに余力があれば結婚しておくと良い。今や博士課程のサジェストに地獄というワードが上位に出てくる。奨学金を借りている場合は学生結婚は現実的ではないが、実家が太い人たちは選択肢にいれておくべきだ。本当に結婚できなくなる。もうひとつは家庭の存在により自分の体を労るようになるのではないかという偏見である。
ハードワークは絶対に必要だが、ある程度の見きりをしないと人は容易に潰れてしまう。大学院進学者と学位取得者を比べてみれば結構な割合で解離が認められると思うのだ。アカデミアはそういった方をドロップアウトと蔑み、研究に向いていないだの能力が低いだの平気で言うが、研究室運営に問題があるとは考えない傾向にある。だから潰れる前に「抜く」ことを是非覚えてほしい。そうは言っても自分一人では限界超えてしまいがちだ。しかし家庭があればそこそこで切り上げるのではないかという偏見である。両刃の剣で家庭に居場所がなくなるといよいよ大学構内に住み着き始めるというリスクもあるのだが。

そして真面目な話をすると、就職予備校としての側面を持つため、大学の中だけではなく色んな人とコミュニケーションを取れるようにすると良いと思う。大学院生にも当てはまるのだが現実的には先述の通り、時間と気力が取れないので院進学する前にしておきたい。

データ含めた客観的かつ詳細な分析は豊田長康氏によりすでに行われているし、各大学も分析して学内関係者むけには公表しているだろう。実際に新潟大学はニュースレターという形で研究部分のスコアが良かったとHPにあげている。つまり、まともな分析はもうとっくにされていて、硬い話をしても意味がない。そこで今回はエビデンスレス、全力全開の偏見で与太話をしてやろうという魂胆である。

ちなみに豊田氏の分析では資金投入割合の低さに言及しているが、じゃあ選択と集中を止めてまんべんなくお金を今よりも多い額面出しましょうとはなりにくいと思うのだ。氏の分析は緻密で、研究力のなかでもイノベーション能力の向上はGDP増加に繋がると導きだしており、専門外の私なんかは簡単に説き伏せられた。しかしパンがないならフラスコ買えば良いじゃないと言えるだろうか。フラスコを買うことにより新たなイノベーションが起こり、パンの大量生産が可能となり庶民にもパンが行き渡ると素面で言えるのは詐欺師くらいであろう。なぜならフラスコの中の真実が世の中の普遍的真理とは限らない。
緻密な分析であるが故につい真実だと誤認しそうになるが、再現性は担保出来ない。提言を受け入れて2兆程度の追加公的資金が投入されても、論文の質と量が向上するとは言い切れない。未来視なんて誰にもできず、あくまで各国や過去との比較から、こうなる傾向にあるくらいまでしか言えないはずだ。

最近では東大宇宙物理学の教授が政権叩きをしたいがために、フェルミ推定を根拠にワクチン100万回を批判して10日後に達成されるという即落ち2コマ漫画を披露してしまった。公衆衛生学でも統計学の専門家でもないにも関わらず教授の看板を利用していっちょかみして、おまけに盛大に外すという情けない姿は教授って大したことねーな、引いては公的資金投入への不信に繋がりかねない。本業では業績を残しているし、HPを見ると出前講義まで精力的に行っておりスライドも公開するなど素晴らしい人格が見える。しかしながらイデオロギー的なこと(軍事研究関連)に囚われると、平気で若者を断罪するような稚拙なスライドをせっせと作り始めるから困ったものである。
思想的には逆側だと思う超有名人として、工学部門で業績を叩き出してはコロナやワクチンやマスクについて害悪を垂れ流す元中部大学教授がいますね。ややカルト化しているようにも見え、これでは大学教授なんてろくなものではないと言われても仕方がないだろう。

という事で、まず一つ!教授陣からSNSを取り上げ(研究室単位で動かすくらいに留めるのはどうか)、メディア出演を大学が制限をかけてみよう。言論弾圧と言われても仕方がないが、ウンコを捻り出して、これは個人の見解で所属機関とは無関係ですみたいな事を繰り返す教授さんサイドに問題がある。特に専門外分野とイデオロギーに関わる分野では発信を厳かに慎むべきだ。

二つ目は研究室運営の健全化である。優れた研究者が昇進しがちな世の中であるが、人の上にたってはいけない人が一定数いるのは間違いないだろう。パワハラでは山形大学がパッと思い付いたが、あれだけニュースに出てくるとなるとどこかに問題があるのではないか。
数年前に文科省の若手職員がAirBridgeという作業部会を設置した。研究現場を考える若手の会として運用されているのだか、つい最近興味深いアンケート結果が公表された。PI(研究室主宰者)の運営能力の欠如は数年前3200人以上の科学者を対象とした調査で示唆されていたが、今回日本の若手研究者に絞った調査でも同じような傾向が認められた。

AirBridgeのアンケート結果より引用させていただく。
”主なまとめとしては、

• 研究室・ゼミ選びに当たり、「指導教員の性格」「指導教員の指導方針」「研究室・ゼミ内の雰囲気」等を重視するべきと認識されている一方、それらの情報を十分に知ることは難しい。

• 学部での研究室配属の際、じゃんけんやあみだくじ等のランダムな手法による配属先の決定や、研究室あたりの受け入れ人数の上限・下限の設定、部局等からの学生の受け入れの依頼といった、学生と教員間のミスマッチを生じうる状況が一定程度存在。

• PIに求める能力として、「マネジメント能力」「研究指導力」「コミュニケーション能力、倫理・道徳観」等が必要とされる一方、十分身についているとは言い難いという認識。

• 研究指導や研究室マネジメントに関するインセンティブ設計や体系的な学習の機会は十分とは言い難いという認識。

• アカデミア・民間企業等への進学・就職にあたっては、「アカデミアに残らなければ負けに近い」等の心理的ハードルが一定程度存在。また、多様なキャリアパスに関する情報が十分でない可能性。”


元データはAirBridgeから取得していただきたいのだが、PIに求める能力として重要なものを順位つけすると、「研究指導力」、次いで「コミュニケーション能力、倫理・道徳観(優れた人格であること)」、以下「優れた研究成果を創出する能力(論文・特許等)」「研究室運営マネジメント能力」「外部資金獲得能力」「研究者・業界への影響力・コネ」と続く。

そしてそれが実際に備わっているかとなるとかなり悲観的な内容になる。「優れた研究成果を創出する能力(論文・特許等)」については90%近く備わっているとの回答を得ているが、「研究指導力」「コミュニケーション能力、倫理・道徳観(優れた人格であること)」「研究室運営マネジメント能力」は60%を超える程度である。さらに研究室・ゼミ選びの際どのような観点を重視した方が良いかとの質問では「指導教員の性格」が90%を超えて重要視すべきとの結果になっている。これは「研究テーマ」や「研究室・指導教員の業績」よりも高い数値である。

理系が多いという回答者バイアスがあるものの、概ね研究室のヤバさが反映された結果だろう。
PIに求められる能力として研究能力と同等以上にコミュニケーション能力や人格が求められる可能性が明らかになった。コミュ力偏重の就職活動だと揶揄されるなかで、超実力主義である研究の世界でこのような結果になるのは実に皮肉がきいている。

もちろん言葉面のみ受け取ってはいけない。研究能力がない人の研究室に進んでいきたがる人はいないだろう。ひねくれた見方をすると、自分の力量ならボスなんて関係ないよとの自信の現れかもしれない。ただし私は、これは若手研究者の悲鳴ではないだろうかと推測する。

ヤバい奴は長にしてはいけない。追放する必要ないが、人の上に立ってはいけない。後進の指導なんかするより研究に打ち込んだ方が輝ける性格だと割りきった方が、指導を受ける側のみならず行う側にとっても幸せだと思う。パワハラセクハラアカハラが常態化している研究室なら人事異動を検討すべきだ。追放や降格して世に解き放つよりも独立ポストを用意してそこに捩じ込むのが穏便なやり方だと思われる。指導には関わらせるな。教授の給料は税金やら学費が当てられる以上、指導能力を求められるのは当然であり、それが嫌なら教授選に出なければ良いだけの話だ。


以上二提言は正直大学力向上に直結するものでは全くないのだが、将来的な公的資金投入や研究室のあり方など国民におうかがい立てるときに必要だと思われる。そして豊田氏が指摘する通り、もっと金を回さなければ大学力の停滞は続くだろう。
個人的には研究の90%は役に立たないものだと感じている。業績にはなりにくいが、上手く行かないことがわかりましたとなることも多い。この現実から目を背けるとデータ捏造してでも結果出さなければというプレッシャーに追われることになる。国民の皆様からあいつは何をやっているんだと怒られながらも10%を捻り出すしかないのではないかと思っている。
そしていわれなき非難をあびている学部学生、死にそうになっている大学院生やらポスドクが救われれば幸いである。