幕末志士の坂本さんの魅力から逃れられない

配信者として知られている幕末志士坂本さんの発言がいちいち鋭くて刺さる。

一例をあげる。生配信でオブザーバー坂本をしていたときの話だ。
そのうち全体公開されるであろうからネタバレを避けつつかいつまんで言うと、チーム幕末でのマリオパーティにて”持つものがそれを生かして蹂躙していく様を見ると心苦しい”と言うような事を言っていた(筆者による脚色あり。正確な流れや発言は元動画を参照なのだが、残念なことに現時点では全員が見られる状況ではない)

つい最近、親ガチャという言葉が流行った。
この是非はともかくとして、親の影響が凄まじいことは論理的に説明がつく。
慶應大学安藤寿康教授の研究ではIQはもとより、精神性、才能や問題行動まで遺伝の影響を受けることが明らかにされている。なんともやりきれない話である。極端な話だがわたくし、才能に乏しい人間が情熱と努力、創意工夫によって成功を収めるストーリー大好き人間である。その手の話にはだいしゅきホールド決め込むことを信条としている。

これが、努力(安藤教授でいうところの勤勉性)が50%以上遺伝する、他にも創造性なども遺伝による影響と言われれば、じゃあ個人って何なのよという疑念が浮かぶ。努力家の人やそうでもない人がいるのは経験的にわかるが、それすら親の影響となると今までのだいしゅきホールドを返してほしくなるではないか。

安藤教授はむしろ凡庸な人にこそ光をあてる研究だとしているようだが、そこまで深い領域に達していない私はかなり落ち込む。恐らく結構な人が同じようなやるせなさを共有できるのではないかと思っている。

勿論私は専門家ではなく、見識不足なので研究の妥当性は判断できない。また、安藤教授の域までいくと、別な視点で見えてくるのだろう。しかしながらこの分野に関して似たような話が多くて、げんなりしてしまう。

マシュマロテストという自制心がその後の社会的成功に繋がるといった研究がある。
ひとつマシュマロを置いた部屋に子供を置き去りにするのだが、15分食べるのを我慢して待てばもうひとつマシュマロをあげると伝えておくのだ。この結果食べてしまう子、我慢した子を追跡調査すると我慢した子の方が学力やら収入やらが多かったというのがオリジナルの研究である。これをもとに自制心が取り上げられ、社会的成功のためのキーポイントとされていた。

それを追試したところ、残酷な現実が浮き彫りになってしまった。マシュマロを我慢できたかは否か家庭の経済状況に左右される。その後の成功や学力の相関も、本人の自制心・忍耐力によるものというよりも家庭の経済状況によるものではないかという。
全く身もふたもない話である。人道支援で植物の種を与えても、現地人は空腹に負けてそれを食べてしまうというようなジョークがエビデンス付きで叩きつけられた気分である。

ペリープレスクールプロジェクトというものがある。詳しくないが概要はこうだ。貧困層含めてランダムに児童を選び、就学前の幼児教育を施して追跡調査するという研究である。これに関しては就学前教育が40歳時での学歴と所得に相関していることが報告されている。こう言っては失礼だが、貧困層の子供でもきっちり成果を出している点がポイントではないだろうか。
遺伝の影響を否定する報告だとは思うが、そもそも就学前教育を行える、そこに投資しようと考えるのは親の影響に他ならない。
単純に日本でも東大生の親の平均年収は世間一般と比較し高いことが知られている。
マシュマロテストの結果と合わせても、親の環境的影響が及ぼす効果は絶大であり、さらにそもそもの遺伝的影響も重ねられるというのは一定の科学的な説明がつくといって差し支えないのではないだろうか。

現状、椅子の数には限りがあるため大きく発展した現代社会ですら競争社会である。私がウダウダ論文付きで大上段に構えて自説の正当性を主張しているが坂本さんの、持つものが蹂躙する様を見てるとヘラる、以上に訴求力あることは言えない。
これ、親ガチャというワードが流行る一月前くらいの出来事で、社会を切ると言うような主旨でもなく面白放送のなかでポロっと言った内容である。そういうところに凄みを感じる。頭が回る人の脳内を一度見てみたい。

また、すこし古くは東京五輪金メダリストの後藤選手が表敬訪問で河村市長に金メダルを齧られる件についても触れ、過度に周囲が叩く事に落ち込むと放送で言っていた気がする(これもデリケートなので元動画参照なのだが全員見られるわけではない)。言われるまで私は河村市長を叩いている側だったかもしれない。恥ずかしい限りである。認識すらしていない隠れた差別意識が浮き彫りにさせられてしまう。非常に刺さる。これを面白交じりに話すのだ。



さて、上の方で恥ずかしげもなく学力試験の結果や年収の高い低いを社会的成功と疑い無く結びつけていた私であるが、これがそもそも分断の始まりではないか。
恥ずかしながらつい最近知ったのだが、能力主義、学歴社会の歪な構造についてNHKでも放送されていたサンデル教授が指摘していた。これについては見識不足で論文もない以上私から語ることはない。当該図書を呼んでくれとしか言えない。ただ個人的には思うところあって、すこし病んだ。

やや自慢っぽくなってしまうが、私の知る限りでは博士課程で経済的に困窮している人はあまりいなかったように思う。(坂本さんは修士だが、親が自己破産した経歴はそもそも珍しいのでは)
あんまりそういう話をしないが、親が裕福か、教育熱心な人が多い傾向にあるのではないか。能力が飛び抜けている人も、信じがたいハードワークを苦にしない人も、物凄く頭が切れる人もたくさんいて、常日頃感激と敗北感を味わっていたが、もはやそれすらも私の首をじんわりと絞めている気がする。それと同時に坂本さんの能力の高さに戦慄する。

ただ、学歴社会や能力主義社会が分断のひとつの原因といっても(それが正しいかも不明)、じゃあどうすれば良いのよといっても明確なビジョンはない。どうしようもない無力感に襲われるのだが、坂本さんにはこのような閉塞した価値観をも蹴っ飛ばしてくれるカタルシスがある。

家庭の話になるが、坂本さんは父が財を成して裕福になり、その父が連帯保証人で倒産し(先述したが自己破産したとか)貧困化するという天国と地獄のジェットコースターに乗っていた経歴がある。
そのためか柔軟性のある考え方をしており、理系院卒から大企業就職、兼業配信者(初期は配信で収入を得てないだろうから不適切かも)というエリート街道まっしぐら、働き方改革にも順応した副業で稼げる安寧の立場から、大企業を退職し専業配信者へ転身という、あまりに異色な選択肢を取っている。
みすみす成功者の地位を棄てて、まだどうなるとも知らぬ大海原に命綱なしに飛び込み、あげく成功する様は現代における冒険譚といっても良いのではないか。
つまらぬ価値観を気にする自分の小ささが目についてこれも嫌になるが、坂本さんは非モテの星のみならず、リスクに縛られて動けなくなった人々の星足り得ると思うのだ。

今やチーム幕末は元大企業会社員、理系院卒、数名は家庭持ちと、社会的には良い地位にいる人たちがいるわけだが、坂本さんが彼らを巻き込みつつどこに向かって道を切り開いていくのか目が離せない。

最近は結婚願望隠すこともないのだが、結婚しても伴侶を幸せにしつつリスクを気にせずリターンを追求してほしい。しない場合も長く配信してくれないかと願うばかりである。